「広報津」平成25年1月1日/第169号(音声読み上げ) 歴史散歩-新春特集- 上野英三郎

登録日:2016年2月25日

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歴史散歩-新春特集- 上野英三郎

Historic Spot - New Year's Special feature - Hidesaburo Ueno

日本農業土木の第一人者として活躍し、また全国にその名が知られる秋田犬ハチの飼い主である上野英三郎[うえのひでさぶろう]。現在の久居元町に生まれ、53歳でその生涯を閉じた上野英三郎の人物像を探ります。

上野英三郎博士の歩み

 忠犬として全国にその名が知られる秋田犬ハチの飼い主は、明治から大正期の東京帝国大学教授で、農業土木・工学を専門に全国の耕地整理の指導的役割を果たした上野英三郎博士です。
 博士は、明治4年(1871年)に現在の久居元町に生まれ、明治28年(1895年)に東京帝国大学農科大学農学科を卒業、その後大学院に進み、明治33年(1900年)から大学で講義をしています。この頃、日本では「耕地整理法」が制定され、大規模な耕地整理(現在の圃[ほ]場整備)が行われようとした時代です。当時その技術指導のできる農業土木の技術者がほとんどいなかった時代に、博士はその第一人者として活躍しました。また彼は、明治44年(1911年)、東京帝国大学に我が国初の農業工学講座が開かれた時、初代の講座主任となりました。

農業土木の第一人者として

 博士は、古代以来の伝統的な水田規格である一辺60間(約108メートル)の正方形区画を批判し、土地の傾斜や地形に合わせて「最小の労力で最大の収量を確保する」規格の整備に重点を置いた理論を展開します。著書『耕地整理講義』は、大学や各地での講義や講演の内容をまとめたものですが、当時実際に行われていた整備例を挙げて、その欠点を指摘しつつ、近代的な耕地整理の要点を一冊に全て盛り込んだ内容となっていて、日本農業土木学の「原典」と評価されています。
 博士は、個々の水田が用水路と側道、排水路に接して独立した耕作を可能とする耕地整理の理論を示しています。これは、やがて工業の発展によって労働力が農村から都市に移動し、少人数で農業生産を担わなければいけない時代の訪れを見越したもので、動力(牛馬・機械)を効率的に使える大規模区画を整備する先見性のあるものでした。しかし、博士の提唱した区画(短辺30メートル掛ける長辺100メートル、面積30アールを基本とする)の耕地整理理論の実現は、当時の土地制度(寄生地主制)のもとでは不可能でした。理論が示されてから60年を経た昭和30年代後半、全国各地での大規模圃場整備で採用された「標準区画」こそが博士の提唱した耕地整理理論の実現でした。

ハチとの出会いと別れ

 博士は、かねてから秋田犬の子犬を飼いたいと望み、大正13年(1924年)に当時の秋田県大館町から子犬が上野家にやってきました。しかし、ハチと呼ばれたこの子犬との生活は、わずか1年余りの短いもので、博士は53歳の時に、大学での講義の後に学内で倒れ急逝します。帰らぬ主人を待ちわびるハチ公の物語が有名となるのは、博士が亡くなった7年後、渋谷駅前のハチ公像の建立は9年後のことです。

上野英三郎博士が遺したもの

 博士の著書『耕地整理講義』は、その後の農業土木を学ぶ人々にとって長く「バイブル」として位置付けられる著作となりました。大学で教壇に立つ一方で、農商務省兼任技師として全国各地での技術指導を通じて多くの技術者を育てた博士ですが、その人数は3,000人ともいわれます。その中には、大正12年(1923年)9月に起きた関東大震災の後、首都東京の復興「帝都復興事業」を支えた技術者も多く含まれ、土木測量技術が農業分野以外でも大変大きな役割を果たし、震災復興に生かされたことがうかがえます。
 今、全国各地の圃場整備を終えた水田をみる時、そこには博士の理論が基礎となって見事に整理された規模の区画や用水路、排水路が広がっています。博士の農業土木学者としての功績の大きさを知ることができ、「日本農業土木学の父」と評価される業績が刻まれています。

上野英三郎博士ゆかりの地

 博士の墓碑は東京青山霊園にあります。竹柵に囲まれた脇には「忠犬ハチ公の碑」が建てられ、博士とハチのつながりを感じることができます。また、東京大学農学部の正門脇にある「農学資料館」には、博士の銅像が設置され、博士の業績の大きさがしのばれます。
 津市内では、久居元町法専寺に墓所があり、久居小戸木町の小戸木神社の地域の略歴を記した記念碑の上部には、博士の揮毫[きごう]による篆額[てんがく]文字が刻まれています。
 そして、昨年の10月20日、近鉄久居駅東口にある緑の風公園に、新たなランドマークが誕生しました。全国初の博士とハチが寄り添うこの銅像は、博士の帰りを待ち続けたハチと、ハチを我が子のように愛した博士の思いを形にした像です。博士の偉大さを感じるとともに、ふたりの絆が私たちを温かな気持ちにさせてくれます。

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