「広報津」平成27年2月1日/第219号(音声読み上げ) 第19回 市長対談-故郷を誇りに思う気持ち-

登録日:2016年2月25日

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第19回 市長対談-故郷を誇りに思う気持ち-

 平成26年10月17日、津市出身の立正大学大学院文学研究科長 三浦佑之さんにふるさと美杉への思いや地域の活力についてお話を伺いました。対談は、映画「WOOD JOB!(ウッジョブ!)-神去なあなあ日常-」では飯田ヨキの家となった美杉町丹生のまたの小倉和夫さん(久居新町在住)のお宅をお借りして行われました。

市長 三浦先生は、美杉町丹生のまたのご出身で、昨年、全国ロードショーされた映画「WOOD JOB!(ウッジョブ!)-神去なあなあ日常-」の原作者三浦しをんさんのお父様であり、県立津高校の先輩でもあります。ふるさと美杉にお戻りになった感想はいかがですか。

三浦 数年ぶりに美杉に戻ってきて、とても懐かしく感じました。車窓の風景がどんどん見慣れた景色になり楽しかったです。

市長 三浦先生は現在、立正大学大学院文学研究科長としてご活躍中で、古代文学の「古事記」や、「遠野物語」などの伝承文学の研究を続けておられます。先日、ご著書『村落伝承論』を頂戴し、拝読しましたが、「遠野物語」を題材にした村落における伝承が研究のテーマということになるのでしょうか。

三浦 私のテーマの一つが、古代から現代に至るまで、村の中で、お話はどのようにつくられ、どうやって伝えられ、どのように生きているのだろうということなのです。「古事記」の研究もその中の一つとして考えています。

市長 序章部分で、鉄道と道路について触れていらっしゃいますね。都市を故郷とは違う「異郷」としたうえで、「異郷と村とを直接繋いでいるのが鉄道だった。だから、鉄路の先に異郷があるという幻想が、近代の村落に生きることの根拠にもなったのである。それを剥ぎとってしまうという行為は、村落を潰してしまうこと以外にはほとんど何の意味も持たない」、一方、「道路は、村落と異郷を繋ぐものにはならない。村と隣の村、そこと隣町とを繋ぐのが道路で、それは、どこまで辿っていっても異郷に行きつくものではない」、大変興味深い分析だと感じました。

三浦 私は旧美杉村の丹生俣という一番奥の集落で生まれ育ち、普段どこかへ出掛けるためには、峠を越えて比津駅まで行き、そこからめいしょう線に乗るしかなかったんですね。当時はまだ蒸気機関車でしたが、汽車に乗ることは一つの憧れでもあり、それに乗ると、名古屋にだって東京にだって、あるいは伊勢にだってつながっている、まさに夢のような世界へつながっているんじゃないかという幻想を小さいころから持っていたんです。
 最初に村落伝承論が出版された1987年は、国鉄が民営化されJRになった年で、全国で支線の廃止が進み、めいしょう線も廃止になるのではないかと地元では大きな話題になっていました。そういう時だったので余計に思い入れがあって、そんな風に書いたのです。

市長 めいしょう線は、当時も被災しており、復旧するために投資したので廃止を免れた、という見方も書かれていますね。平成21年に再び被災した時にも復旧できるのかどうか、大議論がありましたが、最終的にJR東海、三重県、そして津市の間で協議が整い、いよいよ平成28年春に全線復旧を迎えます。これは美杉地域の皆さんはもちろん、白山やいちし地域の皆さんにとっても、非常に思い入れの深いものがあると思います。めいしょう線のこれからについては、どのようにお考えですか。

三浦 全線復旧は大変うれしい話ですが、一方で採算面や営業面での不安もあると思います。それでもやはり、単に効率化とか採算という面だけを考えるのではなく、美杉村を、合併により一体となった津市として大きく捉え直し、その中で美杉という場所をどのようにしていくのかということとも関わってくるのではないでしょうか。道路とは違う形で、鉄道を生かしながら、共同体を活性化するにはどのようなことができるのかを、みんなで知恵を出し合って考えていければいいなと思います。

市長 鉄道が一時寸断された時、地域の人々が鉄道でつながっていたいという気持ちが12万人近い署名につながる。まさにそれは、人々の心のつながりが、めいしょう線のことをきっかけに再確認されたという事案だった訳です。鉄道の復旧に行政として携わっていますが、単なる鉄道の復旧だけではなしに、津市は水路事業を、三重県は治山事業をおこなっている訳です。それらはめいしょう線の復旧関連事業と位置付けられていますが、我々はこの村落を守っていくためのインフラ整備をしっかりおこなっていくことが必要だと感じております。

三浦 美杉が持つ山という財産、そこにきれいな木が生え、それが水を守ることにつながっていると思います。先ほど、周辺を少し散歩したのですが、きれいに枝が落とされたスギの木を見て、このようにして木を守っていくことが、この美杉の生活を支えているのだと思いますね。

市長 旧美杉村時代は、過疎地域の振興ということで、たくさんの皆さんに美杉に来ていただこうと、例えばスカイランドおおぼらやフットパーク美杉などの大きな施設が造られました。ふるさと創生といわれていたころのことです。しかしながら、高齢化が進む中、合併後は特に人々の生活に焦点を当てた取り組みをおこなっています。その一つは美杉総合文化センターの整備です。これは古くなった小規模のホールを、300人収容可能な文化ホールに建て替えたものです。同時に、以前から課題であった矢頭トンネルを、現在三重県と一緒に造っているところですが、これは美杉町しもの川に建設中の最終処分場のアクセス道路という意味があります。これからの地域振興という点では、人々の暮らし、そして当然高齢者の皆さんの福祉にもっともっと着目していかなければならないと思います。

三浦 特に遠野物語を対象として研究していることもあって、地方を歩くことが多いのですが、その土地の中でどうやって自分たちがそこに住むことに対するアイデンティティを見出していけるかという点が大事だと考えます。自分たちが誇りを持てる、心豊かな暮らしをつくっていくことを、第一に考える必要があるのだろうといつも思っています。これから日本の人口が増えて発展することは考えられない訳ですから、そういう時代に例えば50年先にどのような共同体をつくっていくのかということが見通せるとうれしいですね。

市長 心豊かな暮らしという意味では、美杉では、自宅近くに農地を持ち、そこで自家用作物を作っていらっしゃる人も多いのですが、そこにもシカなどの野生獣が田畑に入り込み、一夜にして食い尽くすといった獣害がとても多くなっています。津市では、現在1億円の予算をかけて全市域の獣害対策に取り組んでいるのですが、4千万円の被害額が惜しくてやるというよりも、生活の場で発生している重大な問題ですから、市民の暮らしの場と農地を守るために必要だと考えてやっております。

三浦 決して効率的なことではないとしても、そういう風に捉える視点は、まちに住む人間がふるさとを見直すことにつながっていきます。

市長 「おばあちゃん、そこでわずかなものを作るよりも、スーパーで買ってきてあげるよ。」と言ってしまったら、その人のその土地に対する思いを否定されることになると思います。土地の暮らしを守らなければという思いで市政を進めています。

三浦 それはとても心強く、うれしいお話ですね。

市長 さて、昨年、映画「WOODJOB!(ウッジョブ!)-神去なあなあ日常-」の公開にあわせ、5から8月末まで、美杉町かみたげにある道の駅美杉で「神去なあなあ日常記念館」をオープンしましたところ、4カ月の間に1万2千人を超える皆さんにご来館いただきました。さらにロケ地ツアーを企画したところ、募集人数に対し、16倍ものご応募をいただくなど、大変な人気でした。そこでロケ地ツアーに当選された皆さんに、めいしょう線でお越しいただけませんかと呼び掛けを行いましたところ、ツアー参加者の6割の皆さんが実際にめいしょう線に乗って、集合場所の伊勢奥津駅まで来てくださいました。今回、ロケ地ツアーに参加いただいた皆さんには、美杉の自然を存分に体感していただけたのではないかと思っています。

三浦 今回の映画の撮影やロケ地ツアーは、現地で直接拝見できなかったのですが、ウェブサイトやブログなどでは、たくさんの人が実際に美杉に足を運び、楽しんだ感想を書き込んでいらっしゃるようですね。映画というのはこんなに影響力があるものなのだと感じ、とてもうれしく思いましたし、何かいつものふるさとと違うような印象を受けました。

市長 ロケ地ツアーで美杉を訪れていただいた皆さんからは「自然豊かでとても良い所ですね」「素晴らしい景色ですね」といった感想をたくさんいただきました。こういったことが地域の方々の自信につながりますし、地域や神去村青年団の皆さんも新しい取り組みをしてみようじゃないかと盛り上がり、元気になっていらっしゃる。自分たちが住んでいる美杉ってすごい所なんだなあ、良い所なんだなあと再確認できた、そんな映画だと思いました。

三浦 やはりどうしても離れた村っていうのは、狭く閉じてしまうところがあるように思います。しかし、それは本来開かれているはずで、いくらどんな場所だってどこかとつながっている、そういうつながりを、いつもつくっておかないといけないんだと思いますね。

市長 津市は10の市町村が合併し、今年10年目を迎えます。私も市長として、人や地域とのつながりを大切にし、この地域に住んでいることに誇りを持ちながら暮らしていける社会をつくっていきたいと思います。最後に故郷津市にメッセージをいただけますか。

三浦 大きなことは言えませんが、自分の住まう地域が素晴らしい所だと感じ、そこで暮らすことを誇りに思える何かが必要なのだと思います。それはあらゆる形で活力になっていく。そのためにも常に外部と交わり、世代間の交流ができる共同体ができればいいと思います。

 

立正大学大学院文学研究科長 三浦佑之[すけゆき]さん

1946(昭和21)年に津市(旧美杉村)に生まれる。県立津高校、成城大学文学部を卒業。同大学で博士課程単位を取得後、共立女子短期大学、千葉大学を経て、現在立正大学大学院文学研究科長。古代文学を専攻し、伝承・昔話や地方の言語などを多岐にわたり研究。1987(昭和62)年に『村落伝承論』(五柳書院)で第5回上代文学会賞を、2002(平成14)年に『口語訳古事記』(文藝春秋)で第一回角川財団文芸賞を受賞。

市長対談は津市ホームページ・市長の部屋の市長対談でもご覧いただけます。
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