「広報津」第247号(音声読み上げ)表紙

登録日:2016年4月1日

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表紙

広報津 平成28年4月1日 第247号

ようこそ新1年生!

「保幼小交流会」で1年生と新1年生が合同授業やスタンプラリーを通して交流!(2月25日 大三小学校)

第24回市長対談 たまたまの出会いから生まれた還歴ベンチャー

平成28年1月29日、プラザ洞津にライフネット生命保険株式会社の出口治明[でぐちはるあき]代表取締役会長兼CEOをお迎えし、会社を興されたエピソードやふるさと津市への思いについて、前葉泰幸[まえばやすゆき]市長がお話を伺いました。

撮影場所 プラザ洞津

市長 出口さんは津市美杉町(旧美杉村)出身で、今日は「津市産業振興セミナー」でご講演をいただくため、ふるさとにお帰りになりました。津市の皆さんが出口さんに憧れを持っており、一度話を聞いてみたいという声が非常に多かったのです。

出口 うれしいです。とてもありがたいです。

市長 出口さんは日本生命保険相互会社に長くお勤めになられ、その後、新しい会社を興されました。60歳で起業をされたということで、ご講演いただくタイトルも「還暦ベンチャーの経営戦略」ということですね。「還暦ベンチャー」についてお話しいただけますか。

出口 ベンチャー企業を興すということは、いろいろな偶然の重なりだと思います。「天の時」「地の利」「人の和」(注:)という言葉もありますが、私が60歳の時に保険会社を開業したのは、その頃に人との出会いがあり、タイミングが合ったということです。 (注:孟子「天の時は地の利に如かず地の利は人の和に如かず」)

市長 俗にベンチャーと言いますと「一発当ててやろう」とか「今の会社を飛び出して」というイメージがありますが、出口さんは大企業のど真ん中で堂々たる仕事をなさった上でのベンチャーですから、少しイメージが違いますよね。

出口 私も以前の会社に不満があったわけではなく、楽しく仕事をしていたのですが、たまたま出会いがあって「会社をつくりませんか」と言われ、思わず「はい。いいですよ」と返事したがために、67歳を過ぎた今、人生で一番長く働く羽目になってしまったのだなと思っています。「出会い」の部分が大きいです。

20代の所得が300万円ちょっと。こんな社会は変えたい!!

市長 以前と比べますと、インターネットでものを頼むことが当たり前の時代になってきています。保険の世界でもそういった形に変わってきているのでしょうか。

出口 今、日本人の所得が少しずつ下がっていて厚生労働省のデータによると、20代の所得は300万円ちょっとしかありません。これはフリーターやニートが入っているからなのですが、そのデータを見たときに「こんな社会は変えたい」と思いました。20代が貧しいと、晩婚になり少子化になります。年収300万円に対し、大手生命保険会社が売っている保険の平均は毎月2万円近くします。

市長 私も毎月1万4000から5000円を26歳ごろから保険会社にずっと支払ってきました。

出口 年収300万円の人にこのような保険を売ることはできません。同じ保険会社をつくるなら、保険料を今の半分にして、若い人が安心して赤ちゃんを産める社会をつくりたい。どうしたら保険料を半額にできるか考えたとき、インターネットしかないと思ったのです。

市長 経費が下がるわけですね。

出口 「缶ビールのビジネスモデル」と言っていますが、お店で缶ビールを買えば200円ぐらいです。でも居酒屋で飲んだら400~500円します。なぜ同じビールが倍になるのかというと、居酒屋では人件費や家賃、光熱水費が上乗せされるためです。ライフネット生命のビジネスモデルとは、インターネットで皆さんが直接缶ビールを買ってくれるから200円で売れるということと同じなんです。

市長 新しい時代のシンプルなビジネスモデルが社会に提供され、見事にニーズに合っていたということなのでしょう。会社は急成長されましたね。

出口 創業から7年ですがまだまだ小さい会社で、社員90人で売り上げが90億円ぐらいです。業界全体では40兆円ぐらいの売り上げがありますので、マラソンで言えば、400メートルのトラックをなんとか走って競技場の外に出たぐらいです。

市長 今からロードへ?

出口 これからが本番です。私自身はまだ何もやっていないと思っています。

市長 長くサラリーマンとしての経験をお持ちの出口さんは、私も愛読している雑誌『プレジデント』で「悩み事の出口」というコーナーを執筆されていますね。

出口 お恥ずかしいです。読んでいただいているとは。

市長 2016年2月15日号の中では「能力がある人より、ゴマすり上手な人の方が有利ですよね?」という質問に対し、「仕事の能力が9割、人間関係が1割です」とお答えになっています。つまり、同じような能力であれば多少ゴマをする方が可愛がられるかもしれないけれど、能力をしっかり持って、それを発揮することが大事だと、野球選手を例に出して書かれています。

出口 野球でもサッカーでも同じですが、ゴマすりがすごく上手な選手でも、試合に出たら三振ばかりでは勝てません。どのような仕事でも、人が思うほどゴマすりの能力は必要ないと思っています。試合に出たら3回に1回ぐらいちゃんとヒットが打てる人は、みんなが認めますから、あまり気にしなくていいと思います。

市長 逆にゴマすりに一生懸命になろうとしている人に対して、「いやいや、もっと本来の仕事の力を蓄えて、しっかりと仕事をしなさい」というメッセージでもあるのですね。

出口 今やっている仕事をきちんとしないで、ゴマをすっていても、一生試合に出られないかもしれません。だったらバッティング練習や投球練習をした方が試合に出るチャンスは多いと思います。

人口の規模や県都のステータス。発展の必要条件は満たしている

市長 ふるさとの経済のことに話を移します。東京の経済と地方の経済、なかんずく東海地域、三重県あるいは津市について、どのようにお感じですか。

出口 10年ほど前、まだ会社を始める前ですが、地域おこしの研究を1年間したことがあります。そのときに議論していたことは、まず一つは人口です。中核都市と言う人もいますが、20から30万人ぐらいいないといろいろな集積効果が働きませんので、人口が少ないとなかなかしんどい。これは全世界共通です。もちろん、すごく豊かで農産物などがたくさんできるところは、小さくても自立していけるでしょうし例外もあります。しかし何もないところにまちをつくって、生きていくためには、ある程度の人口がなければ、コストが高くなります。津市は人口30万人弱ぐらいで、面積もすごく広いです。

市長 約711平方キロメートルです。

出口 もう一つは、置かれている状況です。例えば、名古屋市というすごく元気の良い大都市があって、平成28年はちょうど伊勢志摩サミットがあります。みんなが行きたくなる伊勢神宮や伊勢志摩、熊野古道など、人の流れのちょうど真ん中にあるのですから、人口の規模や県庁所在地としてのステータス、さらに大きく人が流れるルートにあるということは、発展の必要条件は十分に満たしている気がします。

市長 ありがとうございます。

出口 あとは十分条件の話になりますが、やはり住んでいて「楽しい、面白い、わくわくする、良いことをやっている」といった要素は非常に大事な部分だと思います。例えばどこかに移住しようと考えたときに、同じような条件だったとしたら、人は「楽しそう、わくわくする、面白そう」な場所を選ぶ気がします。

市長 なるほど。

出口 市役所の皆さんが、どのようなまちにしようかと一所懸命考えて、そのような場をつくっていくことがとても大事だと思います。

市長 「楽しそう、わくわくする」そういったことをみんなで考えていくのが地方創生につながるわけですね。美杉地域ではJR名松線が平成28年3月に復旧し、もう一度つながります。こういったつながりを大切にし、地域経済の活力をしっかりと創り出していかなければならないと思っています。それから、やはり働く場所が必要です。津市も、Uターン、Iターン、Jターンの人をお迎えする職務経験者採用を行いました。平成27年4月採用では、8人の募集に対して445人の応募があり、倍率は55倍でした。

出口 すごい倍率ですね。

市長 平成28年4月採用の試験にも6人の募集に対して、240人の応募があり、倍率は40倍でした。地域の経済界の皆さんにも一緒になってUターン、Iターン、Jターンの受け入れを頑張ろうと話しているところです。

出口 私は高齢社会で一番大事なことは、極端に言えば定年の廃止だと思います。「介護」が超高齢社会の一番のキーポイントです。介護の定義をすると、寿命マイナス健康寿命が介護期間ですから、健康寿命を延ばすしか方法はありません。健康寿命を延ばすためにどうしたらいいかというと、医者のほぼ全員が「働くことが一番」と言います。

市長 生きがいを持って働き続けるということですね。

出口 極論ですが、例えばいろいろな公募をされる中で欧米のように、年齢フリーで募集してみる。他にはない画期的なことですから、元気のある人が集まってくるかもしれません。

若い皆さんが私たちの未来。たくさんの経験がいい仕事を生む

市長 最後に、ふるさと津市の皆さんへのメッセージをお願いします。

出口 私は歴史が好きで、人間が誕生して20万年、どのようなことをしてきたのかを見ていると、やはり一番大事なことは、若い皆さんが私たちの未来だということです。未来の日本、未来の津をつくっていくので頑張ってほしい。ではどのように頑張るのかというと、まず人間は動物ですから体が元気でないといけません。たくさん食べて、たくさん寝て、たくさん遊んで、元気にまた仕事をする。でもそれだけでは足りなくて、考えなければいけません。知恵を出さなければ面白いことはできませんし、知恵を出すためには、料理と同じでいろいろな材料を集めなければなりません。私は「人・本・旅」と言っていますが、若い皆さんはたくさんの人に会い、たくさんの本を読み、いろいろな場所に行って、そしていろいろなことを学んで、そうして初めていい仕事ができる気がします。津市美杉町(旧美杉村)の雲出川上流は、とてもきれいで私も子どものころ、川に入って一所懸命魚を捕っていました。津の若い皆さんもたまには美杉地域に行って、雲出川に入ってみてください。これも一つの旅だと思います。

市長 地域のポテンシャル、「こういう力がこの地域にはあるぞ」と元気になるお話をいただき、津市の皆さんへの応援メッセージもいただき、本当にありがとうございました。今後もますますご活躍いただきますようお祈り申し上げます。

出口 ありがとうございました。

 

ライフネット生命保険株式会社 代表取締役会長兼CEO 出口治明さん

1948年津市美杉町(旧美杉村)生まれ。京都大学を卒業後、1972年に日本生命保険相互会社に入社。企画部や財務企画部で経営企画を担当するとともに、生命保険協会の初代財務企画専門委員長として、金融制度改革・保険業法の改正に従事。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て、同社を退職。2006年に生命保険準備会社を設立し、代表取締役社長に就任。2008年の生命保険業免許取得に伴い、ライフネット生命保険株式会社を開業。2013年6月より現職。


 

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