「広報津」第269号(音声読み上げ)表紙

登録日:2017年3月1日

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表紙

桜のトンネル、通り抜けよう
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写真 雲出川沿いの亀ヶ広に続く800メートルの桜並木(昨年4月5日 白山町二本木)

第31回市長対談 劇場は違う価値観と出会う場所

劇団 第七劇場代表・演出家 鳴海康平さん、津市長 前葉泰幸

平成29年1月25日、劇団第七劇場代表で演出家の鳴海康平さんをお迎えし、美里にある劇場テアトル・ドゥ・ベルヴィルでの活動や、津市における文化創造について前葉泰幸市長がお話を伺いました。

良い作品を生み出すのに都市部である必要はない

市長 今回の対談は美里にある劇場 テアトル・ドゥ・ベルヴィルの舞台をお借りしています。写真の撮影は美里在住の写真家・松原豊さんにお願いしました。さて、劇場名テアトル・ドゥ・ベルヴィルはフランス語ですよね。

鳴海 テアトルは劇場、ドゥというのが、の、英語で言うオブという意味。ベルヴィルが美しい里・美しい街という意味ですから、直訳すると美里の劇場。

市長 美しい村、美しい街、美里ですね。

鳴海 ヨーロッパの劇場では地域の名前を付けることが多いので、美里の劇場テアトル・ドゥ・ベルヴィルという名前を付けました。

市長 以前は、倉庫だったのですか。

鳴海 資材倉庫だったところを、文化活動に理解のあるオーナーが貸してくださっています。紹介してくださった方々と資材を整理して、地域の方々にも壁の色塗りや、床張りなどの作業を手伝っていただいて作り上げた劇場です。

市長 白と黒の空間がすっきりしていて良いですね。ぐるっと見回すと視野に入ってくるのはほとんどが舞台で、客席は大変コンパクトにできています。

鳴海 やはり、お客さんにぜいたくな環境で舞台を体験していただきたいという思いがあります。客席と舞台が近いので、間近で演技を見ることができる。これぐらい舞台のサイズがあると、他のホールや海外で公演するときにも作品のサイズを調整しなくてもいいんですよ。

市長 2014年、作品を鑑賞した時に感じたのは、舞台に奥行きがあるとダイナミックに見えることです。例えば役者さんが、舞台の斜め一番奥から手前まで動いたときでも、テレビ画面などで見ると横の動きになりますが、奥行きがあるから迫力が生まれます。

鳴海 大きなホールでも席が遠いと、どうしても平面的に見えがちですけど、この間近さだと奥行きが感じられますね。

市長 立体的に見えるというわけですね。鳴海さんが劇団第七劇場を設立されたのは、大学生の時だったと伺っております。

鳴海 好きだった映画の勉強がしたくて北海道紋別市から早稲田大学に入りました。まずは、演劇から学ぶ必要があると思い学生劇団に入って勉強を始めたら、はまってしまい演劇をずっとやることになってしまいました。

市長 そして今では、その演劇活動は国内、さらに海外にも広がった。

鳴海 うれしいです。演劇は生身の表現なので。

市長 表現が言葉の壁を越えるのですね。

鳴海 はい、まさにそこに挑戦したいという思いがあって、海外に行くと決めて活動していました。その結果、これまで韓国、ドイツ、フランス、台湾の6都市で上演させていただきました。

市長 以前、フランスに滞在されたご経験もおありなのですね。

鳴海 2012年の秋から1年間、研修でパリにいました。

市長 いかがでしたか、パリは。

鳴海 文化の集まる場所としては、やはりヨーロッパ随一だと思います。

市長 フランスから帰国された後は、東京が拠点だったはずなのに、今やもう活動の拠点は津市の美里ですね。演出家、芸術監督としての鳴海さんが地方から芸術を創造していくことについては、市民の方々の関心も深いと思われますので、そのあたりをお話しいただけますか。

鳴海 私が演劇の先生として師事していた演出家の鈴木忠志さんが富山県の とがむら(現 南砺市)の山奥で芸術活動をされていて。

市長 とがむらも演劇で有名ですよね。

鳴海 良い作品を創るためには都市部である必要は全くないと学びました。陶芸家の窯のように、画家のアトリエのように、演劇に関わる者にも、城が必要です。東京で、これぐらいの広さで活動を継続していくことを考えると、コストも高くリスクも多い。そうすると、芸術家の特性によっては創作に適した場所は、東京ではないんじゃないかと思うようになりました。それで、ご縁があって、美里を紹介していただきました。

市長 地方でも大丈夫、むしろ地方の方がいいというわけですね。でも、数ある地方の中から、どうして美里だったのですか。

鳴海 地方の特色というのは、自然だったり、特産品だったりいろいろあると思いますが、私はソフト、人間だと思います。

市長 なるほど、人間ですか。

鳴海 例えば、文化に理解のある首長さんがいるとか、芸術家が多い地域であるとか、他所から入ってくる人に対して寛容であるとか、地域のために熱心に活動している文化人がいるとか、ソフトによって地域のオリジナリティーが出てくる。この美里は、そういう文化人が多かったのです。

市長 ありがたいことです。多くの芸術家、文化人が、活動していける場所ということは、都市としての幅や奥行き、風格を表す要素の一つですよね。ただ、ここへ公演を見に来ようとしたとき、少し不便だという声はありませんか。

鳴海 確かに不便な部分もありますが、不便さを味わった上で芸術体験をすることも面白いと思います。便利なことが増え、合理的になったことで失ったものもたくさんあります。ここには、行きはバスで来られますけど、夜の公演を見るとバスがなくなります。すると、お客さんの中には、ちょっとそこまで送っていくよと言ってくださる人もいる。車中で作品の話をしたり、どこから来たの?だったり、不便だからこそできる濃密なコミュニケーションが生まれますね。

劇場は想像力を働かせ価値観を広げる場所!!

市長 劇場のことに話を進めます。私は20数年前に熊本県庁で文化行政に携わり、熊本県立劇場の担当になったことがあります。

鳴海 いい劇場ですね。

市長 当時、館長として元NHKアナウンサーでベストセラー気くばりのすすめの著者、鈴木健二さんをお迎えしました。熊本の文化創造のトップとして、伝承が危ぶまれていた神楽を復活させたり、アジアの青少年のオーケストラのキャンプを招いたりして、芸術をこの場所で作っていこうと頑張っておられた。つまり、劇場というのは、特に行政が所有する文化ホールなどは、ただの貸館では駄目で、文化を創り出す場所にしないといけないということです。津市には津リージョンプラザのお城ホール、白山総合文化センターのしらさぎホール、サンヒルズ安濃のハーモニーホール、そして今、久居に準備しているホールの4つの大きなホールがあります。これらも同様に、芸術創造の場所にもしていきたいと思っているんです。

鳴海 素晴らしいですね。

市長 鳴海さんから見てホールとはどんな場所ですか。

鳴海 この7年くらい三重県文化会館が演劇に力を入れていて、全国的にも津市にある劇場は有名になったと思います。この津市でずっと演劇活動と劇場運営をしていたNPO法人パンみえ(特定非営利活動法人パフォーミングアーツネットワークみえ)の油田晃さんや山中秀一さん、三重県文化会館の松浦茂之さん、この三人が官民共同で劇場から文化を発信していこう、津市、三重県のために文化的還元をしていこうと、はっきりとしたミッションを持って活動されていることは意義深い。劇場というのは他者と出会う場所です。今は日本でも多様な社会、寛容な精神を大事にする気風が高まってきましたが、自分の価値観とは違う作品を見るのは、嫌いとか好きを超えてこの人はどういうことを考えているのかとか、こういう体験が自分にとってどんな意味があるのかといったことを考える時間になるわけです。他者と出会い、価値観を広げる場所として劇場は機能していく。そのためにクリエーションし、発信していくことが劇場の重要なミッションだと思います。

市長 美里の人たちからすると、この劇場によって今まで経験したことがないような出会いがあって、とても大きな刺激になりますね。

鳴海 この美里地域をご紹介いただいた時も、近くに家具作家の油田さんがいたり、写真家の松原さんがいたり、田舎暮らしを楽しく発信しているNPO法人サルシカさんがいたり、魅力的な人がたくさんいて驚きました。普通のガソリンスタンドだと思っていたら、経営者の稲垣さんはITのプロフェッショナルだったりします。そういう特殊な方々がたくさんいる地域というのは、なかなか珍しいと思いますし、私たちにとっても刺激になります。

世代を超えた地域の絆 劇場を通してつながる

市長 美里には地元の小学生・中学生で構成された美里子ども劇団があり、人権フェスティバルなどのイベントで演劇を披露しています。鳴海さんには演技の指導をしていただいていますが、子どもたちの反応はいかがですか。

鳴海 本当に元気がいいですね。いろいろな地域で、高校生や大学生と接する機会はありましたが、なかなか小学生と接する機会はありませんでした。私たちが引っ越してきた2014年から演技指導に関わり、今年で3年目になりましたが特徴的なのは他の学年との交流や、縦の関係に慣れているところです。セリフを覚える手伝いをしたりして、下の世代の子の世話がスムーズにできています。

市長 その縦のつながりを大切にしながら、美里ではこの4月から みさとの丘学園義務教育学校において9年間の一貫教育が始まります。これまでの高宮小学校、辰水小学校、長野小学校、美里中学校が、いったん幕引きになるわけですが、移行するにあたって、プロジェクトが進んでいるそうですね。松原さんも一緒に参加していただいているとか。

鳴海 美里中学校の閉校事業で、私と松原さんも実行委員会に参加しています。イベントの中で、卒業生の写真をプロジェクターで投影しようということになり、卒業生の皆さんに劇場に来ていただいて写真を撮っています。

市長 この場所で撮影するのですね。

鳴海 第1期生も撮りました。最後の卒業生は69期生ですから83歳になられますが、とてもお元気でした。若い人も皆さん仲が良くて、昔話に花を咲かせて楽しく撮影できました。

市長 地元に残っている人も、そうじゃない人も一緒に撮ったのですか。

鳴海 皆さんにここに集まっていただきました。

市長 そんな歴史が、新しい学校につながっていくというわけですね。とても素敵な写真になると思います。公演の方に話を戻しますが、去年はどういう演目が上演されたのですか。

鳴海 劇場では、毎年4月から6月くらいまでの春シーズンと、9月から11月くらいまでの秋シーズンがあります。例えばダンスとか演劇だったり、松原さんと音楽家がコラボレーションして写真をプロジェクターで見せながら、生演奏をするような企画だったり。あとは、子どもの絵本の読み聞かせだったり、映画の上映会だったり。私たち第七劇場は、去年はたくさん地方を回り、ここベルヴィルから出発して京都、金沢、岡山と4カ所でオイディプスというギリシャ悲劇のツアー公演をしました。11月には、日本と台湾で共同制作した作品を、まず台湾で公演をした後、三重県文化会館で日本公演をしました。

市長 2017年の春はもう間もなくですが、4月からはどんな公演が始まるのですか。

鳴海 この春はダンスから始まり、松原さんと音楽家のコラボレーション企画もあり、韓国から劇団を招いて公演があったり、子どもも大人も楽しめる作品の上演があったり、それから三重県文化会館と広島でも公演する予定の作品のプレビュー特別版をここでも上演します。おはなし会や、映画の上映会もあります。

市長 では最後に、これからの意気込みなどお聞かせください。

鳴海 ここに住む方たちのお人柄にひかれて三重にゆかりもないにも関わらず移り住んだ私は、お世話になったたくさんの方々に恩返ししたいという思いもありますし、あそこに行けば何か面白いことをやっているという地域のための劇場であること、そして美里の名前、津の名前、そして三重の名前を知っていただけるような文化活動を国内外に向けて、これからも発信し続けていきたいと思っています。

劇団第七劇場代表・演出家 なるみ こうへい さん

1979年10月12日生まれ、北海道紋別市出身。テアトル・ドゥ・ベルヴィル芸術監督。早稲田大学第一文学部在籍中の1999年に劇団を設立。これまで国内20都市、海外(フランス・ドイツ・韓国・台湾)6都市で作品を上演。2014年、津市美里町に活動拠点を移設。


 

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