「広報津」第273号(音声読み上げ)表紙、第32回市長対談

登録日:2017年5月1日

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表紙

広報津 平成29年5月1日 第273号

目指せ!未来の白バイ隊員

写真 春の全国交通安全運動出発式の見学に来ていた仲良し兄弟。憧れの白バイ隊の皆さんと敬礼!(4月6日 お城西公園)

第32回市長対談 マイナス掛けるマイナスでプラスに

名古屋大学大学院准教授 こまつ ひさし さん
津市長 前葉泰幸

平成29年2月17日、津市公共施設等総合管理計画策定・推進アドバイザーをお務めくださっている小松尚・名古屋大学大学院准教授をお迎えし、津市の公共施設等総合管理計画の内容や事業の推進について前葉泰幸市長がお話を伺いました。

ニーズを探りまちと関わる

市長 小松先生は建築計画や地域計画、まちづくりなどがご専門でいらっしゃいます。まずは先生のご研究やご活動の内容をお聞かせくださいますか。

小松 各地の老朽化した小・中学校の建て替え計画に携わっています。学校施設が多機能であることを生かして、さまざまな活動ができる地域拠点という形で整理しようと考えています。
公共図書館については、建築計画や運営手法を研究しています。最近は、高齢者や、若者、子育て世代の居場所として使われることも多く、そういう今日的なニーズをどう取り込むのか国内外の事例を調査しながら研究を進めています。

市長 さて、津市公共施設等総合管理計画は、174ページの分厚いものになりましたが、この計画についてどうお感じですか。

小松 基本的な考え方は全庁横断的に見ていく方針となっていますが、具体策では、まだ少し行政の縦割りが残っているように感じます。
公共施設マネジメントは、計画を作ることが目的ではなく、市民の皆さんに良くなったという実感があって初めて成功と言えます。つまり、財政的にどれだけうまくいっても、不便になったとかサービス水準が落ちたでは駄目なのです。市民の皆さんの反応はどうですか。

市長 こういう計画自体の必要性はご理解をいただいていると考えています。昨年、計画策定と並行する形で市政アンケートを実施しましたが、まず、老朽化した施設は今後どうしていけばいいですかという質問に対しては、3つの意見に分かれました。他の行政サービスを削減してでも更新費用の財源を賄うべきあるいは税率を上げてもいいという意見が約3割。一方で、そういう施設は民間や地域に譲渡・売却するとか、もう更新しなくていいという意見も約3割。施設を統廃合し施設数を減らすが約4割となりました。

小松 4割近くが統廃合の必要性を認識していることは、一つの方向性として大事にすべきだと思います。

市長 次に、今後も利用が見込まれる施設についてはどうしていけばいいですかという質問ですが、市職員や財源を投入すべきという意見が約2割。一方で、民間、地域に譲渡するというご意見が約4割、民間に業務委託するというご意見が約4割となりました。

小松 最近、PFIとか、公設民営、指定管理者制度という新しい手法が各地で導入されています。この結果は、市民の皆さんも一定の理解を示しているように感じます。

市長 最後に、今後の利用が見込めない施設はどうしていけばいいですかという質問ですが、民間に売却や賃貸するという意見が約6割と多い。市役所が転用、再利用すべきが約2割で、民間による活用、財源確保を求める声が大きいようです。

小松 しかし、民間に売却すると建物はともかく、公有地はもう返ってきません。特に市街地にある公有地は、防災拠点としても重要な役割を果たすので、慎重に検討していただきたいと思います。

市長 役割を終えた公共施設は処分していくべきだという声がある一方、総論ではそうだけれど、各論になると自分たちの地域のものは、ぜひ残してほしいとか、古くなったので建て替えてとか、使用料を安くしてとか、こういうお声をたくさんいただきます。

小松 津市だけではなく、どの自治体でも、総論は賛成、各論は反対というのが一般的な構図です。公共施設のマネジメントは、財政の方から出発している問題なので、数字の議論になりがちです。しかし、公共施設は、実際にはまちに建っているものですから、まちとどう関わっているか、特に周辺の市民の意見をくみ取っていくプロセスが大事です。
どうしても今は削減という話になってくるので暗い話に受け取られがちですが、必ずしもそうではなく、どう考えるかが大事です。今までバラバラにあったものをまとめてワンストップ化もできますし、いろいろな人が交流する空間づくりもできると思います。さらに公共施設を使っていないという方々の潜在的なニーズをくみ上げると、また新しい方向性も出てきます。例えば、保健センターに子どもの検診に行くついでに、役所で医療費助成の申請を出すとか、図書館で絵本の読み聞かせに行くとか、そういうことが一緒にできるような工夫ですね。

市長 津市役所本庁舎と津リージョンプラザがそうですね。保健センターと図書館と行政窓口が一緒にあります。

小松 まさにそれが、地域拠点という一つのイメージではないでしょうか。海外の事例を紹介しますと、ロンドンにはいくつかの区がありますが、その一つの区にはかつて13の図書館があり、どこも利用率が悪く、8割以上の人が使っていませんでした。90年代にこれらの図書館の再編の話が出た時、まずは市民のニーズを探りました。そうすると、図書館を使わない理由が、一つは建っている場所が不便だということ、もう一つは提供されているサービス内容が市民のニーズとずれていることが分かりました。低所得の人が多い地域だったので、就職に関する情報が欲しいとか、健康や子育てに関することなど多様なサービス提供をしてほしいというニーズがありました。それを踏まえて、15年くらいの間に13館を7館まで減らして、駅やマーケットの近くに移転しました。そうすると、本の貸し出し数も増えましたが、それ以上に図書館にやってくる人が増えました。市民の満足度も上がり成功事例として高く評価されています。同じようなことが、津市でも目指せるのではないでしょうか。

市長 公共施設は、当然市民のためのサービスを提供する場所であって、サービスがどう提供されるかによって公共施設の在り方も考えなければならないというわけですね。津市でもそうお感じになるところはありますか。

小松 一つは幼保連携型の認定こども園津みどりの森こども園です。今まで別々だった幼児教育と保育をうまく融合しながら、未就学児と保護者にいろいろなサービスを提供する一つの例かと思います。
もう一つは、4月に開校した義務教育学校みさとの丘学園ですね。単に小学校と中学校が同じ敷地にあるだけではなく、複数の小学校が統合され、9年間の一貫した教育プログラムが展開されるということもあって、新しい地域のつながりを生み出すような拠点になっていくことを期待しています。

開発と成長の時代から再編と集約の社会へ

市長 さて、先ほど紹介した公共施設の総合管理計画ですが、公民館、出張所、放課後児童クラブについては、施設の種類ごとに施設整備指針として考え方を整理しました。一身田公民館、一身田出張所は、よりコンパクトに建て替えるとか、放課後児童クラブは、未設置校区に建てていくなどといったことを平成29年度当初予算に盛り込みました。必要な施設は造っていかなければならないのですが、計画を進める際には、横の連携をしっかり取っていかなければならないと考えています。

小松 その際は、地域を俯瞰するというか、地図を広げて考えてほしいと思います。20世紀は成長と開発の時代で、公共施設は都市の成長を支えるために一定水準の施設を素早く供給することが重視されました。成熟社会といわれる今は、既存施設をそれぞれの状況と地域の特性に合わせて再編・集約する、つまり21世紀は、成長・開発から再編・集約に転換する時期なのです。
また今後、市民の方には、単に利用者として要望を出すだけではなく、計画や運営に参画していくパートナーであることが求められてくるでしょう。つまり、これからの公共施設は、行政から一方的に与えられるものではなく、一緒に造り上げていくものだということですね。そういう認識をぜひ持っていただきたい。
その際、どうしてもヘビーユーザーの意見が大きくなりがちです。サイレントマジョリティーという言葉がありますが、今使ってない人のもっとこうなったら使いたいという意見をくみ上げることが、次の公共施設を考えるヒントになるのではないかと常々思っています。

市長 今いくつか重要なご指摘をいただきました。一つは、市民参加。市民と一緒になって運営していくことで公共施設を次の時代らしいものにしていくこと。
もう一つは、財政上持続可能な状態、しっかり管理できる範囲内で公共施設を提供していくこと。施設が老朽化した場合に、今までのサイズでそのまま建て替えていくことは、将来の負担を考えると難しい。今はたまたま合併特例事業債など有利な財政措置があるので活用していますが、今後はさらに考え抜いて、賢く造り、運営していくことが必要ですね。

小松 これから実現するにあたっては、プロセスのデザインが非常に大事です。どうやって市民の声を拾い上げ、議論し、合意形成するのか。これはかなり時間がかかりますし、そこに関わる人たちの当事者意識も必要です。ともにつくると書いて、きょうそうといいますが、そういう雰囲気づくりが必要になってくると思います。

雑居ではなく融合で新たな価値を創出する

市長 ところで、ここ教育委員会庁舎ですが、合併後の本庁機能を担う庁舎として造ったものです。1階が応急クリニックで、2階から上が教育委員会となっている複合施設です。

小松 施設規模をコンパクトにして、管理運営コストを抑えるという意味では、複合化は効果的です。しかし、気を付けなければならないのは、今まで別々の物が1つの館に入っただけの雑居ビルにならないようにすることです。うまく機能の融合を考えていただきたいと思います。これは言葉遊びですが、規模やコストがマイナスになった機能同士が一緒に同居するとマイナス足すマイナス、イコールマイナスです。

市長 足してもマイナスのままですね。

小松 それが掛け算するとプラスに変わる。今まで違う場所にあったものが一緒になった時に、新しくできることは何か。それが今日的なニーズに応えることだと思います。そういう柔らかい発想ができると新しい21世紀型の公共施設になるんじゃないでしょうか。ただ、公共施設にはそれぞれ法制度があって、役所の部署も縦割りです。これに横串を刺すことが不可欠です。
それから、建物も人間と同じで、長生きするためには健康診断や、ときには治療が必要です。一般的に鉄筋コンクリートの建物は、だいたい40年で大規模改修をして、寿命は60年と言われていますが、これを80年にするにはどうすればいいのかなど、これから考えていくべき課題があります。

市長 本庁舎は昭和54年(1979年)の建築で、築38年になります。まさに40年ぐらいのタイミングなので、設備の大規模改修に取り掛からないといけませんね。
次に、学校の有効活用についてお話しください。津市は、小学校48校、中学校19校、義務教育学校1校と多くの学校があります。

小松 どの自治体も学校は公共施設の保有面積の中で1番多いものですから、1番のターゲットになります。学校の機能や空間は非常に多様で、普通教室だけではなく、運動場、体育館、工作室、音楽室、家庭科室などがあり、さまざまなニーズに応えられると思います。例えば、家庭科室や工作室は地域の方も使えますし、音楽室はコーラスやバンドの練習もできるのではないでしょうか。体育館やグラウンドだけではなく、テニスコートも使いたい人はいると思います。学校は地域のシンボルなので、地域のニーズに応えるいろいろな機能を入れてあげるという考え方も有効です。実際、そういう利用を念頭に置いた改修や建て替えは各地で始まっています。
それから、どんな管理運営体制を構築するかも大切です。行政や学校の先生に全てお任せというわけにはいきませんので、どういうふうに地域側で管理運営するか、空間のデザインだけでなくプロセスのデザインも含めて一緒に進めていくと、スムーズにいくでしょう。

市長 最後に全体を通してアドバイスをお願いします。

小松 4点あります。1つ目は、地域の事情を考慮して地図上での議論をすること。2つ目は、市民のニーズをくみ取り合意形成に至るまでの議論をきちんとデザインすること。3つ目は、マイナス掛けるマイナス、イコールプラスの発想で複合化や共用化を進めていくこと。最後に、縦割りの行政機構に横串を刺すことが大切です。
さらに、具体的なモデルケースができると市民にも理解しやすいのではないかと思います。

市長 本当に有益なご意見をありがとうございます。明るい将来のためにも、これからの公共施設は、財政的にも裏打ちされた状態でしっかりと整備し、運営していきたいと思います。引き続きご助言のほどをよろしくお願いします。

名古屋大学大学院 環境学研究科 都市環境学専攻 准教授 こまつ ひさし さん

工学博士、一級建築士

専門分野 建築計画、地域計画、まちづくり、地域・大学連携

主な活動 公共施設の建築計画などの分野において、愛知県、名古屋市、松阪市、大垣市をはじめ、各地の自治体でのアドバイザーや検討委員を務める。


 

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