「広報津」第293号(音声読み上げ)表紙、第39回市長対談

登録日:2018年3月1日

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広報津 平成30年3月1日 第293号

輝く未来にキックオフ

白塚小学校の児童が、サッカーチーム ヴィアティン三重の選手の皆さんからサッカーの指導を受けました(2月5日)

第39回市長対談 東京大学大学院教授 清水えいはんさん

東京大学大学院 工学系研究科教授 清水えいはんさん
津市長 前葉泰幸
平成29年11月14日、東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻の教授であり、国土交通省主催の中長期的な地籍整備の推進に関する検討会で委員長をお務めの清水英範氏をお迎えし、地籍調査や空間情報学などについて前葉泰幸市長がお話を伺いました。

待ったなし 地籍調査

市長 先生のご研究分野についてお話しいただけますか。
清水 空間情報学とは、測量や地域の調査などの成果を地図に表現するといった方法論を考える分野です。古代文明発祥とともに測量もし、地図もあった訳ですから伝統的な分野である一方で、最近では人工衛星やGPSを使って測量しますし、さらにはドローンを使って三次元の測量や形状復元などもしています。地図などの多様なデータはコンピューターで効率的に管理されインターネットで提供される時代となっています。古くて、かつ先端的な分野が空間情報学であり、これを有効利用して地域計画や都市計画をより良いものにすることが研究者としての目標です。
市長 確かに地図というのは、登記や公図、境界の確定など非常に重要なものだと思います。今、地籍の整備が進められていて、その中長期的な地籍整備の推進に関する検討会の委員長をお務めでいらっしゃいますね。
清水 地域や都市の計画といっても広範囲にわたります。例えば、防災拠点にもなる公園を造りたいとか、密集していて災害時には危険な市街地を活性化も兼ねて再開発したいとか、そういう空間的な広がりを持った地域の中長期未来を考えていくものです。それらを実行するときに把握しないといけないのが、対象地域に誰の土地があって、その土地と隣の土地との境界がどこなのかということです。登記所に行けば大体のことは分かりますが、正確ではない場合があるので事業が難航してしまうというわけです。私のような空間情報学や地域計画に関わる者にとっては、地籍整備は本当に重要な課題で、エンジニアリング的な課題というよりもそれを支える法制度的な課題だと考えています。
市長 なるほど、そういう制度をきっちり整えるために、この検討会がつくられているということですか。
清水 これからの法制度はどうあるべきかを検討しています。国がリーダーシップを取る地籍調査は、国の10カ年計画にのっとって行われています。正確には国土調査促進特別措置法という法律に基づいた国土調査事業10カ年計画といい、現在は第6次10カ年計画で平成22年度から31年度までの計画です。今は平成29年度ですからそろそろ終盤に差し掛かっているということで、次の第7次10カ年計画をどのように設計するのかが主な論点です。

地籍調査は社会のインフラあらゆる事業の進捗に影響

市長 津市の場合は独自に10カ年計画を作りました。人口集中地区での地籍調査の進捗率は、全国規模で24パーセントくらい進んでいるのに津市はまだ7パーセントです。この10カ年計画で43パーセントまで引き上げようと取り組んでいます。私どものこの取り組みを清水先生は、2016年11月号の都市問題という雑誌の寄稿文で取り上げてくださいました。そもそも津市の取り組みが先生の目に留まったきっかけとはどういうことだったのでしょうか。
清水 私は、関心のある政策や事業が全国でどう展開されているのか知りたいときは新聞記事を追いかけます。最近は新聞記事もデータベース化されていますから地籍というキーワードでインターネット検索していたところ、たまたま2016年8月1日付の中日新聞で復旧対策へ地籍調査という記事が見つかりました。ここで津市の取り組みが紹介されていたのですが、そこにあった前葉市長の力強い言葉に感銘を受けました。地籍調査は社会のインフラ。南海トラフ地震で被災が懸念される沿岸部で集中的に進めるとのことでしたが、私は、社会基盤の教授ですのでインフラという言葉に大変愛着と誇りを持っています。市長が地籍調査は社会のインフラであると言ってくださったことに非常に感動しました。
市長 ありがとうございます。社会インフラというのは、どうしても道路や港湾、河川の整備といったハード面に目を向けがちですが、ソフト面、つまりそれが無いと社会的にいろいろな事業が進まなくなるものもあると思います。私は常々地籍調査によって土地の権利関係や境界をきっちり把握しておかないといろいろな意味で不便だと感じておりました。地籍調査が社会のインフラだと確信したのは、平成26年11月に東日本大震災で被災地となった宮城県山元町の齋藤俊夫町長とまちの復興についてお話したときです。新しい街をゼロからつくるような大きな被害を受けたにもかかわらず、スムーズな線引きが出来たのは地籍調査が完了していたおかげだとおっしゃっていました。
清水 災害への対応は、東日本大震災以降多くの地域で注目されています。ただ、前葉市長のように熱意を持って取り組まれているところは、それほど多くありませんし、熱意を持ったからといって必ずしも調査が前に進むわけではないでしょう。前葉市長はどういうふうに調査を進捗させようと考えたのですか。
市長 調査を進めようとすると資金面で国や県からご支援をいただく必要があります。調査を依頼するにも発注者側の人員が必要です。つまり、金と人なんです。私が市長に就任した平成23年当時、地籍調査の予算は1,300万円くらいで担当者は1人でした。行政は事業を拡張しようとするときによく予算から先に増額するのですが、お金があっても人がいないとなかなかその次に広がっていきません。そこで、先に人員を1人増やしました。同じ予算で人が増えると増えた1人はさらに調査を進める方策を考えたり中長期的な計画を考え始めます。結果として予算も増えてきました。もちろん最終的には私が判断するのですが、職員のやる気が何より重要です。最近では年度途中に国や県から補正予算の声がけがあると、市長の指示を待たずに職員の方で積極的に手を挙げ事業費を増やしていくようになってきています。

三重県の進捗率は9パーセント全国で下から2番目

清水 まずは人員からというのは非常に興味深いですね。さらに、その後の予算の増え方には、熱意が数字として表れている気がします。津市の取り組みで特徴的なのは重点整備区域を設定したり、10カ年計画を市独自で立てていたり、あるいは関係団体とも協力して調査の推進協議会なども作られているところです。市長はどういう思いでこういうものを考えられたのですか。
市長 地籍調査のボリュームを増やそうとしても、どこをやるとかどんなふうに進めるかなどがはっきりしていないと、お金だけ、あるいは人員だけ増えてもできないことがあります。そこで重点整備区域を設定し、防災の観点から南海トラフ地震が懸念される沿岸部を中心に進めることにしました。行政がやろうとしても市民の方々からご協力をいただかないといけないので、例えば相続や道路の拡幅などの際に境界がはっきりしていないとご不便があるので、先に調査しておくことが大切ですよと丁寧に自治会など地域の皆さまにご説明してまいりました。それとともに、土地家屋調査士や専門家の皆さん、法務局にも計画作りの段階から関わっていただきました。予算もたくさんいただかなければいけないので、国土交通省の都市部官民境界基本調査というものを活用したり、その部分を先行調査として地籍調査につなげたり、いろいろ工夫しながら進めています。
清水 地域的に優先順位を付けて重点的に取り掛かるのは非常に良いことだと思います。また、官民の境界だけでも調査しておくと後の復旧・復興とか都市再開発でもかなり効果的です。さらに、関係団体との協力は一番大切なことですね。行政だけで旗を振っているとどうしても調査に協力させられるようなイメージになりがちです。そうではないだけに皆が協力して進めていくことが非常に重要です。
市長 極端に言えば、今特に支障が無ければ調査は必要ないとお考えの人もおられ、啓発に力を入れなければなりません。人口集中地区だけでなく全体の面積に対する進捗率は、津市はたった3%、三重県全体でも9%で、日本で下から2番目と非常に低い。なぜこれほど差が出るのでしょうか。
清水 やはり調査に取り組む時期の違いによります。昭和26年に国土調査法ができてから地籍調査が始まりました。その時すぐ取り組んだ地域が東北地方だったりするわけです。国土調査法の第1条に書かれていることは、国土の開発と保全、そして土地利用の高度化です。戦災の復興からそろそろ高度成長という時ですから、この目的は非常に分かりやすかった。市民の皆さんにも行政にも国にとっても分かりやすいということで、予算の措置が今に比べるとはるかに容易でした。東北地方では全体的によく進んでいて、先ほどの山元町はすでに完了しています。しかし、中には全国平均の52%に達していないところが散在していて、そのほとんどが昭和20年代後半から30年代には町や村の違う課題にお金を使わざるを得なかったという事情がありました。先延ばしにした結果、地籍調査まで手が回らなくなってしまったということなのです。さらにもう1点は、調査の対象面積が広いということです。広いということは当然関連する土地利用も産業も多様ですね。災害の危険性が高い中山間部もあるし海岸もあるということで、とにかく行政の課題がめじろ押しでした。全てを進めなければいけない中で地籍調査だけを進めるわけにもいかなかったという事情があります。
市長 昭和26年といえば、津市の場合は戦災で特に旧津市の市街地部分の70パーセントくらいが焼けたことによる復興事業の時期に重なります。道路を広げたり、土地を交換したりしている部分の公図はほぼ正確ですが、逆に戦災を免れたところの公図は明治時代のままだったりする。今この段階で地籍調査をきっちりと進めていくためには国や県のご支援が必要不可欠です。調査に取り掛かる決断をした平成26年ごろはまだ県などに予算的ゆとりがありましたが、最近はどんどん良い意味で競争が活発化してきました。ぜひ全国的に地籍調査に関する予算の充実をお願いしたい。国の予算を増やしていただくためにも、清水先生には学術的な分野から地籍調査の必要性をご発言いただければと思います。

今問題を先送りすれば子どもや孫の代に影響

清水 私も国の会議や委員会では直接関係ないようなテーマの場合でも地籍の問題に少しでも関連がある場合には重要性について申し上げるようにしていますし、予算の確保についても積極的に訴えています。ただ、国の財政事情も逼迫しているので、これまで以上に説得力がある形で地域のニーズ、切羽詰まったニーズを届けなければいけない。ですから、民意を集約して地域のリーダーが国に対してどんどん要望していくことが、財政当局や国会議員を動かすことにつながると思います。そういう首長さんが全国に増えれば絶対に国全体の地籍調査関連の予算は上がる。その上で、津市のように、積極的に取り組んでいる自治体に傾斜配分をしていくことが、良い意味で地域競争の時代に合った方法かと思います。
市長 社会基盤学の第一人者である清水先生が各方面で積極的にご発言くださることで、地籍調査という地道な仕事にもスポットライトが当たるようになり、市町村は相当刺激され、職員のモチベーションアップにつながってきていることを感じます。
実際に香良洲地域で地籍調査を開始してみると、気になっていた境界が明らかになって安心したというお声を多数いただきました。今度は河芸地域からの積極的な要望のもと、事業を広げていこうとしているところです。市民の皆さまご自身に地籍を整備することの重要性をご理解いただくためにも、清水先生から調査の意義についてお話を頂戴できますか。
清水 我が国というのは、平和で経済的にも発展し国や地方の行政も安定感がございます。国民の皆さんの多くは、自分の土地がどこにあってその境界がどこなのかという情報は正確に役所が管理していると思っています。土地を買ったり相続したりすれば通常は登記します。また、固定資産税も納入していますし相続税も納めています。それは土地の面積に基づいて税金が決まっているわけですから、当然正確な情報を国や地方の役所が持っていると思っている。しかし、役所にある情報が必ずしも正しくない場合もあるという認識をぜひ持っていただきたい。正しくない情報があると将来的に境界の紛争が起こったり、土地の売買や取引の際にトラブルが起こったりする原因になることがある。また、南海トラフ地震のような巨大災害が起こったときに、復旧・復興の計画や事業が前に進まないという大きな問題も発生します。こういう問題は、自分の人生では起こらないかもしれないけれど、子どもの時代で起こるかもしれないし、孫やひ孫その先では必ず起こることなのです。ですから、今問題を先送りにするのではなく自分のため、子どものため、孫のため、そして地域社会のために市から境界確認の立ち会いの依頼が来たらぜひ協力をお願いしたいと思います。
市長 所有者不明土地という言葉が話題に上がるほど土地の問題が社会的な課題となってきています。そんな中で地籍調査は、社会のソフトのインフラで非常に重要です。先生のおっしゃる待ったなし、地籍調査というお言葉のとおり私どもも事業推進に向けてしっかりと取り組んでまいります。

東京大学大学院 工学系研究科教授(社会基盤学専攻) 清水えいはんさん

昭和34(1959)年生まれ、愛知県出身。東京大学大学院教授。
昭和57年東京大学工学部土木工学科卒。東京大学助手、講師、岐阜大学助教授、東京大学助教授などを経て、平成10(1998)年から現職。
専門は空間情報学、地域計画。中長期的な地籍整備の推進に関する検討会の委員長を務める。


 

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