「広報津」第293号(音声読み上げ)市長コラム

登録日:2018年3月1日

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市長コラム 公共サービスの実情 働く人の賃金水準を確保します

津市長 前葉 泰幸

生活に欠かせない公共のサービスの多くを、民間が担う時代になってきています。
道路建設や学校改修、水道メーターの検針、公共施設の管理、コミュニティバスの運行、広報誌の印刷など、民間の企業や団体などが請け負う事業は多岐にわたり、市民生活に密着するものばかりです。
国や地方自治体は公共工事を発注したり、業務を委託したりする相手を、多くの場合、競争入札で選び公契約を結びます。税金を財源とする公のすべての業務は最小の経費で最大の効果を上げることが求められるからです。

競争入札の問題点

入札から契約までの流れは自治体によって異なりますが、津市の場合は、あらかじめその事業にかかる適正な費用を積算し、それを上限とする予定価格を公表します。あまりにも低い価格で落札されると、工事やサービスの質の低下が懸念されることから、同時に最低制限価格も設け、それを下回る金額では契約しません。
落札するにはその範囲内で最も安い金額で入札しなければなりません。受注者は、そこから利益を確保するために、原材料の購入単価を下げたり、工事施工の効率を上げたりするなどあらゆる努力をします。しかし、それでも利益が出せないと、働く人たちの賃金にしわ寄せがいくようになります。
国は公共工事で働く人の賃金を県別・職種ごとに調査し、適正な水準の賃金の額を決めています。公共工事の予定価格は、最低でもこの金額が労働者に支払われることを前提に積算されているのですが、近年、入札競争の激化などで基準を下回る事例が増加していることが社会問題となってきています。

地方独自に動き出す

改善には国レベルでの法整備が求められるほど大変難しい問題です。現在、国に特段の動きは見られませんが、下請けや孫請けといった立場で働く人たちにとっては現在進行形の深刻な問題です。見かねた自治体が独自に条例を定める動きも出てきました。
公共のサービスに従事する労働者の賃金水準を確保するために労働報酬下限額と表現される最低賃金を定め、条例で公契約に規制を設けるのです。これが公契約条例です。労働者側だけでなく日本弁護士連合会など中立的な機関からも制定を求める意見書が出されたこともあって、これまでに35の自治体で制定されてきました。

最低賃金額を決めるのか否か

全国的に見るとわずか2パーセント程度にしかすぎませんが、津市においても公契約条例策定の気運の高まりのもと、2年間と時間を区切って検討を開始しました。そこで最大の論点となったのは、最低賃金の具体的な額を決めるのか否かということです。先行する35自治体の条例は、前者が18、後者が17と、考え方がまっぷたつに分かれていました。最低賃金の額を設定した自治体においては、労働者の経験や技術などを総合的に評価した支払いが困難になるといった問題が指摘されています。一方、適正な賃金水準の確保に努力するという理念を述べるにとどめた自治体では、改善は期待できないとして支払いの義務付けを求める意見が見受けられました。

労使で探る

労使双方が納得できなければ実効性を伴う条例はつくれません。そこで、パブリックコメントを募り、多くの関係先などからも広くご意見を頂戴しました。労働者・事業者団体の代表、中立的な存在である入札等監視委員会や社会保険労務士会などです。企業からの依頼を受けて労務管理や社会保険の手続きに関わる社労士の業務は同時に労働者の福祉の向上に寄与するものでもあります。こうした双方の事情に精通する団体との協議を重ねながらたどり着いた条例案は、これまでにはないスタンスのものとなりました。
自治体が発注する事業や業務に従事する労働者に最低賃金以上の額を支払う義務付けは、一見、事業者と労働者とが対立しかねないテーマのように受け取られがちです。複雑な事情を抱える事業者側の経営が立ちいかなくなる可能性も否定できず、対立どころか労働者の属する会社組織の存続にもかかわりかねないことだという考え方もあります。しかしながら、適正な賃金が支払われる企業は労働者にとって働きがいのある魅力的な職場であるわけで、企業にとっては人材の確保と経営の安定につながります。ひいては業界への信頼と地域経済の発展へと結びつくことも考え合わせると、最低賃金の保証は労働者、経営者双方にメリットがあることだともいえます。
公契約条例が良質な事業者を育成するきっかけとなり、最終的には市民生活の活性化に貢献する、そう目標が定まったことで、最低賃金の額を一方的に示すのでもなければ、理念だけを語るのでもない、第三の方法、すなわち、事業者側と労働者側の双方が納得できるような最低賃金をともに探っていこうとする案がここに出来上がったのです。

まずは一緒にやってみる

まず、最低賃金の額を決めることを条例で宣言します。そして5年以内に労使が納得できる条件を探りながら具体的な金額を設定します。ともに制度をつくりあげていく津市オリジナルの公契約条例は昨年12月の議会において全会一致で可決されました。
4月の条例後は、制度を単に一緒に考えるだけではなく一緒にやってみる参加型事業の発注を検討しています。この計画に対し、事業者側からは、経営者としての考え方を伝えながらやっていけるのであれば試行に参加したいという積極的な声が聞かれます。労働者側からも、制度に守られる保護対象としての立場を越え、適正な賃金を受け取る仕組みを相互理解のもとでつくっていくことに大きな期待が寄せられています。
これからが正念場です。責任を持ってこの試みを遂行してまいります。


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