このページは、音声読み上げソフトウェアに対応するため、語句のなかで一部ひらがなを使用しています。
折り込み紙3
令和4年2月16日発行
教委人権教育課 電話番号229-3253 ファクス229-3017
皆さんはこれまで、誰かと何気ない会話をしたり思いを聞いてもらったりして気持ちが楽になったことはありませんか。
コロナ禍の2年間は、友人や知り合いと直接顔を合わせて話す機会がなくなったり、地域行事が中止となり一つのイベントをみんなでやり遂げる達成感を得る機会が減ったりしました。そのように人を直接感じることが少なくなったからこそ、今まで当たり前のようにあった、人とのつながりや、人との関わりが、どれほど大切なものであったかに気付いた人もいるのではないでしょうか。
居場所、という言葉を耳にすることがあります。居場所とは、一般的な場所を指すのではなく、心を休めたり、安心していられたりする関係性、そのものではないかと思います。そのような関係性を生み出す人との関わりが少なくなり、困ったことを誰にも言えず、一人で抱え込んでしまうことが多くなったと感じている人もいるかもしれません。
私たちは、以前のような、人とのつながりを再構築したり、新たな人との関わりを構築したりするために何を大切にしていけばよいでしょうか。
人との関わりの中で前を向くことができたり、さまざまなことに気付けたりするのは大人だけではありません。子どもたちは学校という一つの社会の中で、たくさんの人と出会うことを通して、知識だけでなく、ものの見方や考え方、感じ方も学んでいます。子どもたちは、その学びの中から、人と関わりながら生きていくことの楽しさを実感し、未来を切りひらく力を身に付けていきます。
これらのことは、学校の中だけで感じたり、育まれたりするものではありません。家庭や地域、そしてさまざまな人との関わりの中でも育まれていきます。下を向いて歩いていた子が、地域の人に優しく声を掛けてもらって笑顔になり、自分のことを大切に思ってくれる人の存在や、人とのつながりや温かさを感じたとき、その笑顔はどんどん輝いていきます。
人のぬくもりや、温かさを感じられる社会にしていくために、今回のあけぼので紹介する子どもたちの学びや考え、気付きを通して、私たち大人も一緒に考えてみませんか。
全国の児童相談所が対応した児童虐待相談件数は、令和2年度、初めて20万件を超えました。また警察庁によると、令和2年に児童虐待で命を落とした子どもは61人にも上ります。
児童虐待は、家族間のストレス、経済的な問題、育児への不安など、さまざまな要因が引き金になることがあります。さらには、親自身も悩みや不安を一人で抱え込んでしまい、誰にも相談できずに孤立して困っていたり、精神的に追い詰められていたりして、何らかの支援を必要としている場合があります。こうしたことは、どこの家庭でも起こり得るもので、児童虐待の防止は社会全体で解決すべき問題です。
その背景には、育児との両立を困難にしている労働条件や労働環境をはじめ、都市化、核家族化などに伴い、社会的孤立が強まることで、これまでのような親族や地域などとのつながりの中で支え合っておこなってきた育児が難しくなっていることが考えられます。
また厚生労働省は、新型コロナウイルス感染症の拡大による生活環境の変化と児童虐待との関連性についても注視していくとしています。
私たち一人一人がお互いのことを思い合い、人と人とのつながりを紡いでいくことが、安心して子育てできる社会をつくり、虐待を防止し、かけがえのない命を守ることにつながるのではないでしょうか。
市内でも新型コロナウイルス感染症の拡大が続き、子どもが罹患したり濃厚接触者となったりし、園・学校が休業になりました。そのような状況のもと、感染を広げないこと、学びを止めないことを大切にしながら、園・学校を誰にとっても安心できる居場所にするために、さまざまな取り組みが行われました。
学校が再開されたとき、ある学級では先生が児童たちに休業中にどんな思いで過ごしていたかを問い掛けました。
このような児童の声がありました。
また先生は、津市でも新型コロナウイルスに感染した子どもがいると知ったとき、どんなことを思ったかを聞きました。
このような児童の声がありました。
先生は子どもたちの言葉とともに、その時の思いを学級通信に載せて発信しました。
学級通信から
新型コロナウイルスに感染してつらい思いをしている人たちを誹謗中傷したり、探ったりすることがどんなに愚かなことなのかを教えてくれたのは、子どもたちでした。子どもたちの心に芽生えた人を大切にしようという小さな芽を、大切に守り育ててくださっている保護者の皆さんに、心から感謝を申し上げたいと思います。この芽が枯れないように摘まれないように、そして強く優しく、大きく育つように、私たちも人権感覚を磨き、しっかり生きていきたいと思います。
(学級通信から、おわり)
その先生は日頃から、さまざまな教材を使ったり日常の中で起こった問題を丁寧に取り上げたりしながら、自分の気持ちだけでなく、他の人の思いを考える時間を大切にしているそうです。
学校、保護者、地域が共に、人を大切にしようという思いを持ちながら子どもと関わっていくことにより、ここに紹介したような温かい心が育まれていくのではないでしょうか。
緊急事態宣言下の9月、学校では、児童の安全と学びを保障するために、家庭と学校とをインターネットでつないだオンライン学習を実施しました。触れ合うことや関わること、みんなで集まって何か一つのことに取り組むことが制限される日が続きました。ある学校では、お互いのことを知り合い、繋がりを深めることにこだわった学習をオンラインでできないかを考え、取り組みを進めました。その一環として、ある学級ではお互いの宝物を発表し合いました。
児童の声
ぼくが最近のオンライン学習で楽しかったのは私の宝物です。理由は、みんなの宝物を知ることができたからです。あらためて、みんなの宝物を知ることができて、みんなにも大事なものがあるんだなと思いました。同級生でも知らないことがあったので、また友達のことを知ることができる授業がしたいです。
(児童の声、おわり)
また、この学級では緊急事態宣言の解除後、授業参観の日にみんなに聞いてほしい、嬉しかったことを話す交流会を行い、お互いのことをもっと知る機会をつくりました。保護者からは、子どもたちがうれしそうに自分のことを伝え合う姿を見ることができて良かったです、という声が寄せられました。
ある学校では、今、罹患して休んでいる子が安心して学校に来られるように、どのような学習が必要かを職員全員で話し合い、全ての学年で取り組みを進めることにしました。高学年では、みんなが教えてくれたこと、という学習資料を活用し、学級で考えました。
児童の声
(児童の声、おわり)
休んでいた児童が登校したとき、クラスメートが、マルマルちゃん、久しぶり、と駆け寄り、今までと変わらない笑顔で会話する様子が見られました。保護者からも、心配していましたが、子どもが学校が楽しかったと言って帰ってきたので、ほっとしました、という声が学校に届けられました。
また、ある学校では休んでいた児童が安心して登校できるように、自分たちに何ができるか、を全てのクラスで考えました。各クラスから出された考えを児童会がまとめ、みんなでいっしょに笑顔でいようという言葉を全児童が常に意識できるように、掲示物を作成して玄関口に掲示しました。
新型コロナウイルス感染症の拡大により、感染することだけでなく、周囲の偏見や誹謗中傷からも子どもや家族を守らなければという思いになった人も少なくないのではないでしょうか。
ある学校の児童が罹患したときに、その学校に自分の子どもを通わせている保護者は以下のような思いを持ちました。
保護者の声
うちの子は感染者でも接触者でもないけれど、習い事へ行ったときに他の学校の子から心無い言葉を言われたり、嫌な思いをさせられたりしないかな。
(保護者の声、おわり)
その心配から子どもにしばらく習い事はお休みしようかと声を掛けました。
すると、子どもからは次のように返ってきました。
子どもの声
学校の授業で新型コロナウイルスのことを勉強したよ。自分は感染していないし、人にうつすこともない。誰も何も悪いことをしていないから、習い事には堂々と行くよ。
(子どもの声、おわり)
その答えを聞いた保護者は以下のように話していました。
保護者の声
子どもの方がしっかり考えていることに気付かされました。学校で感染予防のことだけでなく、感染症に罹患した人やその家族などの思いを考える授業に取り組んでもらっているから、子どもがこのように成長できたのだと思い、うれしかったです。
(保護者の声、おわり)
今回の、シリーズ学校・園では今、は、コロナ禍で多くの行事が縮小や中止となり、人と人とが関わる場面も減ってしまう中、さまざまな工夫をしながら人と人とのつながりを大切にした、子どもが安心できる学校・地域づくりを進めてきた、豊津小学校の取り組みについて紹介します。
新型コロナウイルス感染症の拡大と収束が繰り返される中、罹患者や濃厚接触者への誹謗中傷が大きな社会問題となっています。以前から人と人とがつながり、誰もが安心できる地域づくりを進めてきた豊津小学校では、コロナ禍において地域と共に何かできることはないかと考えました。
そこで、小学校区内の自治会長や学校運営協議会長、幼稚園長、幼稚園・小学校のPTA会長とも話し合い、地域全体に連名で緊急アピールと題したチラシを配付しました。チラシの吹き出しには、
など、新型コロナウイルス感染症について授業で学んだ児童たちの声が載せられ、家庭用に配付されたチラシには児童が自分の家族に向けたメッセージを直接書き込みました。保護者からは、家族で話し合うきっかけになりました、といった声が学校に届けられました。
豊津小学校では、通学団などの日常生活や運動会などの行事、教科の学習や人権学習などさまざまな場面で、つながりを大切にした取り組みを重ね、誰もが安心して過ごせる学校づくりを進めています。それは新型コロナウイルス感染症についての学習でも同じです。
ある学年の緊急アピールのチラシを使っての授業で先生が、自分がコロナウイルスにかかったらどう思いますか、と投げ掛けました。すると、児童たちからは以下のような自分を責める言葉や不安な思いが出てきました。
さらに先生が、新型コロナウイルスにかかったら自分が悪いのでしょうか、と問い掛けると、
といった声が上がりました。
そこで先生が、不安な気持ちでいる友達に自分ならどんな言葉を掛けますか、と投げ掛けると、児童たちからは次のような言葉が出てきました。
そのようなみんなの言葉を聞いた児童たちは、
と感じたそうです。
このように、豊津小学校では、お互いの思いを伝え合い聴き合う学習を重ねることで、誰もが安心できる学校づくりを進めています。
校長先生の、コロナ禍だからこそ創造力を発揮し、人と人とのつながりを深める取り組みを大切にしていきたい、という言葉が印象に残りました。豊津小学校が保護者や地域と共に人と人とのつながりをつくろうと、一枚のチラシをきっかけにして家族で話し合ったり、クラスで思いを伝え合ったりしたように、私自身も自分の家族や職場、地域の中で、思いを伝え合い聴き合うことを大切にしていきたいと思いました。