「広報津」第443号(音声読み上げ)津市人権教育広報 あけぼの 第37号

登録日:2024年7月16日

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折り込み紙3

津市人権教育広報 あけぼの 第37号

令和6年7月16日発行
教委人権教育課 電話番号229-3253 ファクス229-3017

子どもたちの姿や言葉を通して 子どもを取り巻く一人の人として

非認知能力という言葉をご存じですか。人間の能力は、大きく認知能力と非認知能力の2種類に分けられます。読み、書き、計算などのさまざまな知識の習得など、点数で数値化できるのが認知能力です。一方、自尊心や自己肯定感、物事をやり抜く力、協調性など、明確な数値で表したり、測ったりすることができないのが非認知能力です。
子どもたちが生きるこれからの社会は人々の価値観がますます多様化する中、お互いを尊重し、協働して生きていくことが求められます。このような社会を生き抜いていくためには、想定外のことに対応できる能力、不思議を感じる感性、失敗しても立ち直ることができる力、そして、従来の方法では解決できなかった問題を、新しい視点から捉え、分析し、解決していく能力など、非認知能力についても育成していくことが大切であると考えています。
これらの非認知能力は、生涯を通して育まれますが、とりわけ、就学前の段階、いわゆる乳幼児期により発達すると言われています。乳幼児期からその能力を育むためには、家庭や園・学校および地域の中で、子どもを取り巻く大人一人一人が、温かいまなざしや愛情のシャワーをたくさん注ぐことが必要です。市教育委員会では、子どもを取り巻く大人一人一人が大切にしたいことについて具体例を紹介し、子どもたちの成長に主体的に関わり、ともに子どもたちの未来を拓いていきたいという願いを込め、リーフレット「子どもの未来を ともに拓く」を作成しました。
今回のあけぼので紹介する人たちは、子どもたちとの出会いを通して自分自身を振り返り、子どもや人と関わっていく上で大切にしたいことに気付き、考え、自らの生き方につなげていこうとしています。
私たち大人が子どもにかける言葉や関わりが、子どもの自己肯定感や人権感覚を育んでいくことにつながります。子どもを取り巻く一人の「人」として、「私」の子どもにかける言葉、「私」の子どもへの関わりなど、自分自身のことを振り返るきっかけになればと思います。

人権コラム 子どもの自己肯定感を高めるために

自己肯定感とはありのままの自分を肯定する感覚、自分のことを好きだと思える感覚のことを言います。心理学的知見では、自己肯定感が高いと他者からの評価や自分の置かれた環境などに関わらず、自分を受け入れ、自信を持つことができます。また、周囲の人のことも認めることができます。さらに、勉強や部活動などにも意欲的に取り組むことができる傾向にあります。一方で、自己肯定感が低いと自分に自信がないため、他人と自分を比べて劣等感を抱いたり、他者を排除・攻撃したり、失敗を恐れて物事に積極的に取り組めないなどの傾向が強くなります。
このように自己肯定感は、自分や他者を大切にする気持ちの礎となるものであり、子どもの人権感覚を養う上でとても大切なものです。こうした子どもの自己肯定感は周囲の大人との関わりによって育まれていきます。
例えば、子どもの気持ちに寄り添って話を聞くこともその一つです。子どもの考えや意見を尊重し、自主性を大切にすることで、子どもは自分が認められていると感じます。また、成功や失敗に関わらず、挑戦に対する頑張りを褒めることで、子どもはどんな時にも受け入れてもらえるという安心感を得ることができ、自分自身を受け入れやすくなります。
全ての子どもたちがありのままの自分を肯定し、自分や他者を大切にできる子どもを育めるように、今一度、子どもへの関わり方を振り返り、学校や家庭、地域が共に子どもの成長を支えていけるような社会をつくっていきましょう。

私が気づいたこと・学んだこと・変わったこと 子どもとの出会いや学ぶ機会を通して

今回は、大学の教育学部で学びながら外国につながる子どもに関わる活動に参加している中千代さんと、子育てをする親の一人で、PTAの活動を通して多くの保護者や学校の先生と関わっている木原さんからお話を伺いました。

私が壁を作っていたことに気が付きました。

大学生の中千代穂香さん

私は、子どもの頃から小学校の先生になりたいという夢があり、教育学部で学んでいます。大学の授業で外国につながる子どもたちのことを知り、津市が行っている大学見学ツアーや就業前日本語教室「つむぎ」などに参加しました。そこで、外国につながる人との間に壁をつくっていた自分に気が付きました。

補足
  • 大学見学ツアーとは、外国につながる中学生が日本の大学を見学し、大学を知ることを通して、進路に対する意識を高めるための取り組みのこと
  • 就業前日本語教室「つむぎ」とは、就学前の外国につながる幼児が、戸惑うことなく小学校生活に適応できるよう、日本の学校で行われる授業や活動を体験する取り組みのこと
外国につながる子どもたちと関わるのが不安だった私

大学見学ツアーに参加し、外国につながる子どもたちと直接関わるまでは、「言葉が通じなかったらどうしよう」「文化の違う子どもたちに、私が良かれと思ってやったことが嫌だって思われたらどうしよう」という不安がありました。
私のグループになった子どもたちの中には、日本語がほとんど分からない子から、ある程度日本語で会話ができる子までいて、私はどんな風に声をかけたらいいのかと考え込んでしまいました。けれど、実際に子どもたちと同じものを見て楽しんだり、普段の学校の話をしたりする時間の中で、少しずつ打ち解け、私の方が感じていた壁が少しずつなくなっていきました。
就学前日本語教室「つむぎ」では、子どもたちも保護者も、最初は不安で落ち着かない様子でしたし、私も「何をしたらいいんだろう?」と不安に思いながら、子どもたちの隣に行って「上手にできたね」など、声をかけていました。
何回目かの授業の時、数字のカードを並べていた子どもが、「できた!見て」と嬉しそうに私に見せてくれました。後ろから見ていた保護者もとても嬉しそうでした。そして、休み時間になると「一緒に折り紙しよ」と私を誘ってくれたんです。その子の笑顔や保護者の安心した顔を見て、私の不安もなくなっていきました。

壁をつくっていたのは私だった

私は、直接子どもたちと関わる中で、母語が違う子ども同士が楽しそうに遊んでいる様子を見たり、言葉が分からなくても子どもたちと同じ空間で楽しくやり取りしたりすることを通して、「言葉が通じない」「文化が違う」と先入観で壁をつくり、外国につながる人との関わりを避けていた自分に気が付きました。そのことに気付いてから、普段の生活の中でも、一緒に授業を受ける留学生とグループになって活動することや、アルバイト先で外国につながる人に話しかけることなど、以前は避けていたことを自分からやってみようと思うようになりました。
これから出会う子どもたちにも、自分から関わりを持ち、信頼し合える関係をつくっていきたいと思います。

大人が学ぶことって大切だと感じました。

津市PTA連合会会長の木原剛弘さん

私も子育てをしている親の一人です。私自身も日々悩みながら子育てをする中で、子どもから気付かされることがあります。PTAの活動では研修を受ける機会や、多くの保護者や学校の先生方とお話する機会があり、そこでも気付かされることが多く、私自身も学ばせてもらっています。

子どもを知ろうとすること

PTA連合会の研修で聞かせてもらった各地域での取り組みの中で、「子どものことを知るって大事だな」と気付かされる話がありました。ある地域では、「元気で明るい子を育てたい」という思いで、保護者や教職員があいさつ運動に取り組みました。2、3日経った頃、学校の先生に「大きな声を出すのが苦手だから、あいさつ運動をしている前を通りにくくて悩んでいる」と子どもが相談しに来ました。そんな子どもがいることを知り、その子がプレッシャーを感じなくていい方法を保護者と教職員で共に考えたそうです。
この話を聞いた参加者からは「あいさつをプレッシャーに感じる子どもがいると考えたこともなかった。一人一人のことを知ることで私たち大人の関わりも変わると思う」「あいさつは大きな声でするものだと思っていたが、大きな声を出すことが苦手な子も安心してあいさつできるように、何ができるのか考えることが大切だと感じた」という感想が出ました。私自身も、子育てについて学んだり、子どもがどのようなことを思ったり、考えたりしているのか知ろうとすることが大切だと気が付きました。

子どもの思いを聞くことから

ある日、子どもが「学校に行きたくない」と言ってきたことがありました。私は「学校へは何があっても行くものだ」と親から言われて育ちましたし、一度休むと行きにくくなるんじゃないかという不安もあり、「学校に行きなさい」と言うべきか考えました。でも、以前受けた研修の中で聞いた、まずは子どもの話を聞くことが大事だという話を思い出し、子どもに「どうしたの」と尋ねました。すると子どもは「学校で嫌なことがあったんさ」と話し出し、不安に感じていることを聞かせてくれました。子どもの不安な思いを知り、学校の先生にも相談しました。先生も子どもの思いを聞いて、クラスの子どもたち一人一人の不安が解消できるように取り組んでくれたことで、子どもも学校へ行こうという気持ちになっていきました。
子どものために、この方法が一番良かったのか分かりませんが、一人の親として、子どもを取り巻く大人の一人として、子どもの話を聞き、何ができるのか考えることを、これからも大事にしたいと思います。

シリーズ人・ひと

今回は、津家庭教育研究会の松原利子さんと山下裕子さんからお話を伺いました。同研究会では、家庭での大人の日常的な姿を通して子どもの自己肯定感や豊かな人間性を育てることを目指して、学習会や講演会、子育てに関する相談などの活動を行っています。

どのようなことを思いながら子育てをしていましたか。

私も、この学習会の参加者でした。子育てをしているとき、友だちに連れられて参加したのですが、始めは講師の先生に「そんなのおかしい」と文句ばかり言っていました。今思えば、「子どもは大人の姿を見て育っていくんですよ」と言われると、子どもに「ああしなさい、こうしなさい」と言い聞かせてばかりいる自分にバツをつけられているようで、私は駄目な親だと感じて苦しかったんだと思います。
そんな自分を素直に認められなくて、私の子育ては間違ってないと言い張っていたのだと思います。(松原さん)

そんな自分が変わったのはなぜですか。

高校生になった子どもが、大やけどをして入院したことがありました。「子どもの命があってよかった。生きていてくれてよかった」と思った時、それまで子どもが何度か、「ごめんなさい」と書いた手紙をくれたのを思い出しました。それまで私は、子どもに言い聞かせてばかりで、子どもの話を聞こうとしてこなかったと気付いたんです。子どもはそんな私の姿を見て「ごめんなさい」と言っていたのかもしれません。
「子どもの話をもっと聞こう」「自分を少し変えよう」と思い、少しずつそうしていくと、私の子どもに対する見方が変わり、自分自身が解放されたように感じました。そんな自分だったから、親が子どもに自分の思いを押しつけてしまったり、そんな自分を変えたいと思っていてもなかなか実践できなかったりする気持ちも分かるような気がします。(松原さん)

活動の中で大切にされていることを教えてください。

大人が変われば子どもが変わると言いますが、大人が子どもとの関わり方を少し変えてみると、子どもとの関係が変わり始めます。子どもの方は変わっていなくても、私たち大人の見方が変わったことで、子どもが変わったように感じるのではないでしょうか。だから、私たちは子育てをしている人の話をじっくり聞いて、子どもとの関わり方を一緒に考えていきたいと思っています。
参加された人からは、「自分の考えを押しつけるのではなく、子どもの気持ちを丁寧に聞くことを大切にしたいと思った」「子育てや家庭での教育は妻がするものだと思っていた自分の姿は、子どもの目にどう映っていたのかと考えさせられた」などの感想を聞かせてもらうことがあります。これからも、子どもの気持ちに寄り添い、子どもから教えてもらうことの大切さを発信していくとともに、私自身がそういう生き方をしていきたいと思います。(山下さん)

取材者の感想

中千代さん、木原さん、松原さん、山下さんのお話から、本当に子どもの話を聞こうとしているか、自分の価値観を押しつけていないか、偏った見方で自分の周りに壁をつくっていないか、考えるきっかけをいただいたと思います。子どもを取り巻く大人の一人として、自分自身の生き方を振り返ることを大事にしていきたいと思います。


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